ひとり旅 ふたり旅
ずっと、ひとり旅ばかりでした。
自分が大学生だったころ(四半世紀ほどまえです……)、若者の流行は「バックパッカー」でした。沢木耕太郎さんの「深夜特急」をみんな読んでいました。
大きなバックパックを背負って、安いユースホステルを泊まり歩き、気の向くままに放浪する貧乏旅です。アジアの辺境や、アフリカ、南米の奥地など、ガイドブックもない危険な地域に一人で乗り込む、そんなワイルドさが尊敬される風潮でした。
いまから思えば、少し幼稚な憧れかもしれません。安全な日本から出て、異国に飛び出すことのスリルや興奮。知らない景色や、知らない人々に触れ、自分の何かが変わるかもしれないという淡い期待。
でもそれは、アルバイトで貯めた少しのお金があれば、誰でも簡単にできる。
凡百の浅はかな大学生だったわたしでも、こんなことで、日常も、自分の何かも変わるものではないと、うっすらどこかで思っていました。
それでもやっぱり、そんな旅に憧れて、大学生のころは海外をひとりでふらふらしてみましたし、就職して以後も、一人であちこち旅行をしました。ワイルドなバックパッカーへの憧れは置いておいても、単純に、行ってみたいところがたくさんあったのです。
そんなわけで、ずいぶん長いこと、ひとりであちこち旅行をしてきました。
でもいまは……
旅行にひとりで行くことはなくなりました。理由は、一人で行ってもつまらなくなってしまったからです。
そういう心境の変化は、ひとによるのだと思います。いつまでも一人旅が好きな人もいるでしょう。
でも、30代半ばを過ぎたころからでしょうか。行ってみたい場所や、入ってみたい温泉はあるのです。けれど、どんな景色であっても、ひとりで孤独にぼんやり眺めて、誰と感想を分かち合うこともなく、とぼとぼ帰ってくることを思うと、行こうという気持ちが湧かなくなってしまったのです。
行ってみたいな、という気持ちがあっても、行動に起こそうとまで思わない。
老いというものもあるでしょう。けれど一番の理由は、わたしが、ひとりでいることを望まなくなったのだと思います。
望まずとも、わたしは独り身です。それが変わることは、今後もないでしょう。
わたしは実は、友人もいません(なんてことでしょう)。若い頃はちょっとは友人がいたのですが、わたしが連絡を取らないので疎遠になりました。
そして身内は老母ひとりきり。
というわけで、
いまは、旅に行くときは、老母と中年になった娘のふたり旅です。
このブログについて
老母と一緒に暮らし始めて一年が経ちます。
それまではずっと、首都圏でほぼ一人暮らしをしていました。大学入学と同時に上京したので、一人で暮らした期間は20年以上になります。ほぼ、というのは途中で数年間、シェアハウスに住んでいたことがあるからです。
けれど、実家に暮らす母もいつのまにか年を取り、自分も立派な中年と呼ばれる年代に。思い切って、おんぼろの古い一軒家を買い、母を引き取り一緒に暮らすことに。
老母ひとり、中年になった娘一人で、片隅でとぼとぼと暮らしています。誰にもかえりみられないような暮らしのかたわら、ときおり、老母をつれて近隣の温泉地を旅しています。
もともとあまり写真を撮らないほうなのですが、記録に残さなければ、そのときの記憶は、川のように流れ去って忘れてしまいます。
あと何年、こんな旅行ができるのかな、この暮らしが続けられるのかな、と思い、記録に残すことにしました。